私たちの多くは、病院では丁寧な看護を受けられると期待します。もちろん、理想的な対応に感謝することは沢山あります。ところがいつもそうとは限らず、安心や信頼とはかけ離れたケアもあります。重度の患者が多い療養病棟では、患者自身が苦情や不満を訴えられません。そのような現場でこそ医療倫理を常に意識した行動をとってほしいものです。

ここでは、患者の家族が感じた医療措置や看護に対する疑問、利用に不安を感じた介護サービスなどをまとめています。

医療・看護・介護のあるべき姿

厚生労働省委託事業の資料や看護者の倫理綱領には、理想的な体制もしくは行動指標が掲げられています。これらの資料だけを見ていると、日本の医療や看護は安心できるかのようです。しかし、現実には、理想の姿とは異なる実態があります。

調査報告や方針が絵に描いた餅にならないよう、何よりも国民が安心して、療養できるよう、あるいは、最期のときを迎えられるように、研修・再教育、チェック機能を施すなどの対策を講じてしてほしいと思います。

資料の中で大事な指針でありながら現実との隔たりを感じた部分です。

日本看護協会 看護者の倫理綱領

  • 看護者は、人間の生命、人間としての尊厳及び権利を尊重する
  • 看護者は、自らの実践について理解と同意を得るために十分な説明を行い、実施結果に責任をもつことを通して、信頼を得るように努める
  • 看護者の行為が対象となる人々を傷つける可能性があることも含めて、看護の状況におけるいかなる害の可能性にも注意を払い、予防するように働きかける
  • 出典:日本看護協会 2003年 看護者の倫理綱領

厚生労働書委託事業「人生の最終段階における医療体制整備事業」より

神戸大学 平成28年度 厚生労働書委託事業「人生の最終段階における医療体制整備事業」

医療制度・措置・看護と介護サービスに感じた疑問

富山福祉短期大学の実践報告より

看護学生が倫理的視点で判断し行動するために、学生自身が認識した倫理的問題事例を分析したものです。これを読むと、実習において患者の自律の尊重や無危害原則などの権利が尊重されない状況があったことがわかります。

学生が捉えた倫理的行動ができる看護師の姿勢  富山福祉短期大学

学生が認識した問題と、患者の家族が感じた問題が類似していることから、これが特殊な事例ではないと推測できます。

利用者の家族が認識した問題

いずれも、週に3回以上通い、患者に対しリハビリや声掛けなどを熱心に行う家族の話です。たまに見舞い短時間で帰るなら気付かないことかもしれません。

療養病棟/看護・介護

  1. 誤嚥防止の対策が徹底されていない病院もある。
    ベッドが真っ平のことがしばしばあった。顔はいつも上向き。ベッドが平らにされていることを指摘すると、ベッドサイドに「セミファーラー位」の札を掲げてくれるが、その後もベッドが平らになっていることがあった。
  2. 仰臥位(あおむけ)は、流動物が逆流して気管へ入る誤嚥の可能性もあり危険。救急病院では、上体を上げ体と顔は横向きが徹底されていた。
  3. 病院側との話し合いの際、ベッドの背を上げた方が誤嚥の危険性が少ないのではないかと家族が問うと、主任看護師は、それを認める発言。
  4. 患者の益になるとわかっていて、それを徹底できていない。
  5. 中心静脈栄養の滴下速度が速いときがある。通常は1秒に1回未満の速さであったが、それよりも速いことがしばしばあり1秒に2回の速さで落ちていたこともあった。
  6. 自宅介護で輸液ポンプを使い1分間に45回の速さにしたところ、一日で足の浮腫みが解消され、病院でパンパンだった足の甲が数日で細くきれいな足になった。肺に溜まっていた水も自宅介護開始後次第に少なくなった。

    病院での輸液の滴下が本人にとって過剰な速度だったと推測される。
  7. 吸引ボトル交換後3時間経ってもボトルは空(転院前の救急病院では少なくとも3時間毎に吸引)。同じ病室の患者も同様。皆ゲホゲホして遅番の看護師が「痰がすごいねー」と言って吸引する。
  8. 病室の担当看護師によって、痰吸引の頻度に違いがあった。
  9. 痰吸引で、まるで掃除でもするかのように無理にカテーテルを入れる看護師がいる。
  10. 痰吸引の後、患者がとても苦しそうにうめきだす。口の角に赤い血のようなものがついていたようだった。その後、別の看護師が「痰が絡んでとりにくいから熱がまた出るかも」と家族に言いに来た。
  11. 吸引前は全く静かだったので不審に感じた。
  12. 痩せて肩の深く窪んだ場所に、指先の大きさほどの褥瘡。寝ていて当たるところではないので、体位変換などの際、介助者の指が強くあたったと思われる。
  13. 家族がいるときは、本人に話しかけながらケアをするが、いないときは何も言わない。
  14. 声掛けすることなく、患者の体を投げるように体位変換をする。体を動かせず話すことも出来ない患者が、驚いた顔をする。
  15. 8月の暑い日。肺炎で熱がある患者の腰から下に布団がかけられている。
  16. 通常、布団は使わない時期で他の患者もタオルケットしか使っていないのに何故熱がある患者に布団を使ったのか?
  17. 患者の家族からの質問や痰吸引の依頼に、不快な表情で対応する。
  18. 鼻腔栄養を他の患者のものと取り違えて滴下していたことに、家族の指摘で気がつく。
  19. 顔にカミソリで切ったような切り傷があるが、職員間での申し送りがなく、何があったか確認できない。看護師長に聞くと不自然な傷であることは認めるが、どのような状況で起きたのかの事実確認や説明はなかった。
  20. 患者の歯ブラシを床に落としたとき簡単に水で洗い元の場所に戻す。
  21. 抵抗力が落ちている患者に使用する歯ブラシの管理がこの程度でいいのかと心配になり、熱い湯で念入りに洗い直した
  22. 吸引カテーテルや口腔ケアスポンジの交換頻度など救急病院の方が衛生的。

    <吸引カテーテルの交換頻度>
    転院前の救急病院:使用の都度新しいものを使用。
    療養病棟    :1日1回の交換

療養病棟/医療措置

  1. 通常は一週間続けて熱が下がれば使用をやめる抗生物質。ちょうど一週間経ち熱も下がっているので、やめられるかを確認すると、担当の医師が長期休暇中でやめることができないとの看護師の回答。

    代理の医師の判断を希望するが認められず、抗生物質の投与がその後5日間(担当医師の休暇が終わるまで)継続される。

  2. 誤嚥性肺炎のリスクがあるという理由で鼻腔栄養から中心静脈栄養(IVH)への変更を勧められる。
  3. 鼻腔栄養が肺炎の原因とは限らない。

    • ベッドが真っ平になっていることもあり、顔は上向き
    • 痰吸引が適宜行われていないことがある

    など、誤嚥対策が万全ではない。ライン感染のリスクがあるので体に通す管はできるだけない方が望ましいと救急病院の医師から聞いていた。看護の仕方で改善の可能性があるかを検討せず、IVHへの切り替えばかり勧める病院側の姿勢に疑問を持った。

    抗生物質漬けでカテーテルが次々に増やされることに嫌悪感を覚え、そのような措置しか受けさせてあげられないことに心を痛めた。自宅介護ではできるだけ抗生物質を使わず微熱がでたときは脇や首の後ろを冷した。そのうちに尿道カテーテルなしで再び尿が出るようになった。
  4. IVHへの変更を促されたとき、栄養法を変えるのではなく看護のしかたで誤嚥のリスクを減らせるのではないか?と問うと、医師は「他院がどうか分からないが、うちの看護師に問題があると言うなら、他に行ってもらうしかない」と言い、話し合いに同席していた主任看護師がそれを聞いて吹き出すように笑う。
  5. 問題があれば改善しようという姿勢がなく、医療倫理の善行原則に反するのではないか?話し合う機会を与えないうえに家族を蔑視しているようにさえ感じた。
  6. 炎症の判断基準となるCRPの値が、転院後から継続的に高くなる。
  7. 衛生面、体位、痰吸引などが原因か。医療・看護のレベルが下がる病院へ転院させられる診療点数上の仕組みに納得がいかない。

長期に入院ができない診療報酬制度

看護ランクの高い病院では短期間で転院を促され、看護職員の配置が少なく(多くの場合診療科も少ない)長期療養病棟に移らなければならない仕組みがあります。家族は転院先を決めるため奔走します。忙しい中、少しでも良い病院を見つけるために見学をして回る負担は決して軽くありません。

  1. 救急病院に入院してから1ヶ月後、転院先を探す時期と言われ、2ヶ月で転院を促される。
  2. 1ヶ月100万かかるリハビリテーション病院に入院していたが、6ヶ月で転院させられた。
裕福な人であっても、重度の患者となると転院により看護職員の配置が少ない病院に行くことを余儀なくされることがわかる。

在宅訪問診療

家族への気遣いや、患者への緩和ケアの配慮があるところが多いようです。しかし、病院ではないので、薬や設備、検査などに制限があります。

  1. 使用できる抗生物質が限られる。
  2. 検査や措置のための設備や薬が限られているので、できないことに対しては「患者さんの状況は何が起きてもおかしくない状況ですから」という医師の説明。
  3. 少しでも状態をよくしてあげたいと願う家族の希望がかなわない。
  4. 茶色い便のような尿が何度も出るようになった。尿道留置カテーテルを続けていたのが原因と考えられる。クリニックの訪問診療では抗生物質以外に対策の提案はなかった。
  5. 対症療法ではなく原因療法を望む。抗生物質がやめられないのでは体に負担がかかる。
  6. レントゲンを撮ることができないところが多い。在宅診療でレントゲンを自宅に持ち込む医師もいるが、機材が重いため、玄関までの階段の数や階段一段の高さに制限があった。

訪問看護

    24時間体制の訪問看護ステーションにもかかわらず、深夜の訪問に消極的。

    深夜0時過ぎに電話すると看護師があくびをしながら電話に出る。すでに就寝後かと思うと悪い気もしたが、とにかく患者の容態がおかしいことを伝える。
    「昨日も寝ていないようだったのに今日も眠れない様子、酸素吸入量が増え、脈が弱い」しかし看護師は「本人も疲れれば寝ますから」と言う。その言葉を信じて電話を切るが苦しそうな状態が続き、本人、看護者共に一睡もできなかった。

    翌朝、看護師事務所に電話してもすぐに来てくれない。昨夜電話で対応した看護師が昼の12時過ぎに来たときには、既に下顎呼吸。昨夜来なかったにもかかわらず「よかった、今来て」と言う。

全てが終わってしまったという絶望の中、家族への配慮が著しく欠けた発言。状態の悪化が止められないとしても、せめて緩和ケアを施すべきだったのではないか?

この看護ステーションが受け持つ患者は100人以上。所属する看護師は5人。緊急時訪問できる体制とは思えない。

訪問歯科

  1. 歯科医師と衛生士の2人で初回訪問。訪問の際に手を洗ったのは衛生士だけだったが、手を洗っていない歯科医師が手袋もせずに患者の歯に触れる。
  2. 口の中の状態のチェックと簡単なケアをしたところで、歯科医師が「今日はここまで」と早々に切り上げる。
  3. この歯科医は在宅歯科医療地域連携室の室長であった。一方、他の歯科に依頼すると、歯科医自身が全体の汚れを丁寧にとってくれたうえに、質問にも誠実に答えてくれた。

在宅介護(地域ケアプラザ、ケアマネージャー)

  1. 地域ケアプラザの相談員に、訪問の医師の措置でできないことがある場合、別の医師に変えられるかを聞くと、「こっちがだめならあっちなんていうことはできない。訪問診療で医師は選べない」と責めるように言われる。
  2. 治療方針や相性の問題などで医師と信頼関係を築けない場合、健常者の通院なら別の病院に変えることができるのに比べ、訪問診療は選択肢が少なく、充実した措置を受けるのは難しいと感じた。在宅介護でしてあげたいことができず、もどかしい。
  3. ケアマネージャーに、ある医療措置が可能な医師を教えてほしいと言うと「こちらにはそのような情報がない」との答え。それを、訪問診療のクリニックの担当者に話したところ「そのケアマネージャーが所属する団体が医療情報連携拠点なので情報はあるはず」と、在宅医療連携拠点の電話番号を調べ教えてくれる。
  4. ケアマネージャーは、家族の思いに寄り添いその気持ちに応えるよう努めてはくれない。このときからケアマネージャーを信頼し相談することができなくなった。

介護タクシー

  1. 県立の救急病院から紹介された介護タクシー業者
    • 社内には汚れた荷物が乱雑に置いてあり、同乗者が乗るときになってそれらを移動させる。
    • 運転中に携帯で話し、メモをとるときは手放し運転。
    • 介護タクシー会社に所属する看護師が、患者の様子を気にすることなく、しきりに付き添いの同乗者に無用なことを話しかける。
    • 高速に入る場所(仮にAインターチェンジ)を指定したが、遠くのBインターから入る。「なぜ指定したインターから入らないのか」と問うと、「ここが”Aインター”ですよ」と言うが、窓の外をみると、Bインターの名が大きく掲げられている。
      現地についてから遠回りしたことを指摘すると、まず「ナビが古いのでそのインターが出てこなかった」と言う。しかし、インター名を偽ったことを指摘すると、今度は脅すようなセリフと口調。
  2. 介護タクシー2社の見積もりの後、民間救急にも問い合わせると、設備が調い、定期的なパルスオキシメーターのチェックにも抜かりがない民間救急の方が安かった。
    体制・設備・対応が劣る業者の方が高い料金であることは珍しくないので利用者は気をつけなければならない。

介護タクシーを依頼するのは、高齢の家族かもしれません。あるいは、急を要する事態で急いで手配する必要があるかもしれません。そのようなときに、いくつかの業者に問い合わせ、良い業者を見極めることができるでしょうか?

それを考えると、介護事業経営を許可する際、その事業を行うにふさわしいかの審査をより厳しくすべきではないかと思います。また、事業開始後もサービスが適正に行われているかのチェックが必要です。

終末期ケア・サービスを利用して思うこと

2040年には75歳以上の高齢者が人口の約20%、65~74歳は約15%となる見込みです。また、誰もが高度障害になる可能性があります。そのようになったときに受けたい医療措置や介護が提供されるよう、国をあげて取り組んでほしいものです。

最期まで人としての権利と尊厳を大切にし、丁寧にケアすることができる世の中になることを切に願います。